わが国では2017年現在、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合、つまり高齢化率は27.7%へ達し、世界でも類を見ない高いレベルの超高齢社会を迎えています。これに伴い認知症の患者数も近年急増しており、2012年の推計値で全国の462万人(65歳以上の高齢者の15%)が認知症と考えられています(厚生労働省研究班報告)。また認知症の約半数はアルツハイマー型認知症であると考えられており、認知症の予備軍で、正常と認知症の中間状態である軽度認知障害(MCIとも呼びます)の高齢者も約400万人いると推計され、認知症を取り巻く社会整備や認知症に対する早期診断法や有効な治療法開発へ向けた取り組みが急務とされています。
2008年厚生労働省は、認知症の早期発見、診療体制の充実、医療と福祉の連携強化、専門医療相談の充実を図ることを目的として全国的な整備を目指した「認知症疾患医療センター運営事業実施要綱」を定めました。認知症疾患医療センターの役割として各地域において①認知症疾患に関する専門医療相談、②認知症疾患の鑑別診断・初期対応、③認知症疾患の合併症・周辺症状(BPSD)への急性期対応などを担当しています。群馬大学医学部附属病院における認知症疾患医療センターは群馬県における中核型センターと位置づけられており、上記の地域拠点型センターの役割に加えて、①地域拠点型センターとの連携と支援、②鑑別診断に重点を置いた認知症診療、③群馬県内における認知症の啓発活動、研修会や講演会の開催などの業務も担当しています。
これまでの認知症をめぐる政府の取り組みとして、2015年に策定された「認知症施策推進総合戦略(いわゆる新オレンジプラン)」では、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指すことを基本的な理念として、わが国における認知症に対する様々な施策が推進されています。さらに2019年6月には「認知症施策推進大綱」が策定され、認知症になっても尊厳と希望を持ち、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生」を目指し、認知症の発症や進行を遅らせるといった「予防」の2つをキーワードとして推進していく政府の方針が示されました。
群馬大学医学部附属病院認知症疾患医療センターでは高度の専門医療を担う大学病院の責務として、アルツハイマー型認知症や他の原因による認知症の早期診断と鑑別診断を行っており、認知機能を調べる神経心理学的検査、認知症の原因となる内分泌異常などを調べる血液検査、頭部CTやMRIといった脳形態画像検査、脳血流SPECTやMIBG心筋シンチグラフィーなどの核医学検査を日常診療に取り入れて、より精度の高い鑑別診断を心掛けて診療しています。また、アルツハイマー型認知症の早期診断と鑑別診断に有用な新たな脳画像検査や血液や脳脊髄液を用いた診断マーカーの研究も行っています。この様な活動を通じて、各種の認知症疾患を早期に診断し、早期に治療開始することを目指しています。
近年アルツハイマー型認知症に対する治療薬は選択肢が増え、認知症の進行度や各患者さんの状況に応じた薬物療法を行っており、より認知症が進行した際に認められる人格変化、幻覚、妄想、攻撃的行動、徘徊などの対応困難な症状(BPSD)に対しても、センター担当医師、かかりつけ医師、地域包括支援センターやケアマネージャーと連携しながら診療し対処方法を検討しています。このように診断、治療、介護という認知症診療の流れを明確化し、病院内外の関連部署とも機能的な連携を推進することが認知症疾患医療センターの重要な役割と考えます。群馬県における更なる認知症診療の向上に寄与するよう群馬大学医学部附属病院認知症疾患医療センタースタッフの力を結集して活動しています。
群馬大学医学部附属病院認知症疾患医療センター長 池田 佳生