認知症とは、いったん獲得した知的能力が低下することにより日常生活に支障が出てきた状態をいいます。この知的能力には、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など、多くの脳の働きが含まれています。
認知症をきたす疾患のなかには治療可能なものや、発症を予防できる疾患があります。しかしながら治療法がある疾患でも、治療が遅れると回復できない場合があります。残念ながら現時点では、認知症の多くは根本的治癒が望めませんが、疾患によっては、進行を遅らせたり、症状を部分的に改善することは可能です。このような理由で、認知症では、早期発見と早期診断が重要であると考えられます。
認知症の原因になる疾患は数多くあり、その症状も多様です。代表的な認知症疾患を記しますが、他にも認知症を示す多くの疾患が知られています。
(1) アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)
認知症の中では最も患者数が多いのがアルツハイマー型認知症です。この病気はいわゆるもの忘れから始まることが多く、物の置き忘れ、しまい忘れ、また日付、場所などについての認識が低下します。やがて注意力や判断力などが鈍るために、日常生活や社会生活に支障が出てきます。性格の変化、行動内容の変化、運動機能の低下がみられるようになることもあります。これらの諸症状が重なると日常生活に支障を来たし、介護などの社会的支援が必要となってきます。
(2) レビー小体型認知症
本来いないはずの人や物が見える幻視がみられ、記憶・判断力などの認知機能の低下が日によって変動し、妄想や興奮が出現することがあります。手足のふるえや筋肉の硬さにより動作や歩行の障害(パーキンソニズム)などもみられます。便秘、立ちくらみ、うつ症状がみられることもあります。
(3) 前頭側頭型認知症
抑制されるべき行動をコントロールすることができず、逸脱した行動がみられます。同じ内容の発語の繰り返し、毎日同じ行動がみられるのも特徴です。過食や偏食がみられることがあります。言葉が出ず、意思が通じなくなることもあります。
(4) 血管性認知症
脳梗塞や脳出血により、神経細胞が働かなくなるために生じます。認知症のほかに、片麻痺、感覚障害などの症状がみられることがあります。高血圧症、糖尿病、心房細動、脂質異常症などの生活習慣病がしばしば合併しています。発症や進行の悪化をおさえるには、これらの生活習慣病の治療に加え、喫煙、飲酒を控えるなど規則正しい生活を送ることが重要です。
(5) 特発性正常圧水頭症
認知症、歩行障害、尿失禁の症状が三大徴候とされています。もの忘れに始まり、自発性の低下、無関心、日常動作の遅さ、歩行障害が目立ってきます。進行すると、立位や座位を保てなくなります。切迫性尿失禁(急に排尿したくなる、我慢して尿が漏れる)がしばしばみられます。