第6回群大病院認知症疾患医療センター研修会・合同症例検討会が行われました。
サン・ピエール病院病院長・理事長の山崎 學先生に「精神科病院における認知症の現状と課題」について御講演を頂きました。
高齢者人口の増加に伴い、認知症患者の罹患率が上昇し、受療者数が増えていること、また、この傾向が今後も続くことが予想されることを冒頭に説明されました。
認知症でみられるBPSDが家族の大きな負担になっており、精神科病院での入院患者数の増加につながっていると指摘されました。入院患者の内訳としては、アルツハイマー型認知症だけでなく、変性疾患に患者以上に血管性認知症の入院患者数が多いと報告されました。
入院期間の長期化が問題になっており、在宅療養できる患者はむしろ少なく、特養(特別養護老人ホーム)・老健(介護老人保健施設)への転院となりますが、その受け皿が少ないため、精神科病院の入院期間の延長につながっていると指摘されました。
認知症を地域医療として取り組むには介護・ケアの活用が重要だが、特養・老健といった認知症患者が入所できる施設の拡充が今後早急に必要であると強調されました。
症例検討会 「ふらつきと転倒を示し認知症を認めた2症例」
症例1: 48歳女性
40歳台半ばから、進行する小脳性運動失調と記憶障害、注意力・実行機能障害、性格変化がみられた症例です。
来院時の脳MRIでは小脳萎縮、両側にみられるびまん性の大脳白質病変,右下前頭回に限局したT2強調画像にて高信号病変を認めました。家族内に明らかな発症者はいませんでしたが、Atrophin-1遺伝子のCAGリピート数は59と増加がみられ、遺伝子学的に脊髄小脳変性症の一型であるDRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)であることが確認されました。
脳Gd造影MRIでは右下前頭回に集積を認め、FDG-PETによる全身検索で多発骨転移を伴う肺癌(肺原発腺癌)が確認されました。CEA高値であり、退院後は肺癌の治療のため他院転院のため退院となりました。
症例2: 50歳女性
40歳台後半から、ふらつきと易転倒性がみられ、その後徐々に記憶障害がみられるようになりました。
今までできていた食事の支度ができなくなり、更衣・トイレ動作など日常生活の動作が困難になりました。
バランス障害や手指の巧緻運動障害に加えて、注意力低下や落ち着きの無さなど精神症状もみられるようになりました。脳MRI(T2強調画像)では両側の大脳白質に広範な高信号変化と小脳萎縮がみられました。
脳血流SPECTでは前頭葉・頭頂葉・側頭葉の皮質および皮質下白質に血流低下が認められました。Atrophin-1遺伝子のCAGリピート数の増加がみられ、遺伝子学的にDRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)と確認されました。
これら2症例の鑑別診断にはハンチントン(舞踏)病、多発性脳梗塞、リピドーシス、副腎白質ジストロフィー症などが挙がります。
2症例には共通して小脳性運動失調、記憶障害、精神症状が進行性にみられ、MRIにて大脳白質病変、小脳萎縮を認め、成人発症のDRPLAが考えられました。
家族、患者に遺伝子検査の説明を十分に行い、同意を得た上で、遺伝子学的分析を行いDRPLAの診断に至りました。